「アル添酒」は悪酔いする? 日本酒の醸造アルコールの話 

むぎ
こんにちは。むぎです。

 

日本酒には「醸造アルコール」というものが入っていることがあります。

「純米酒」「純米吟醸酒」など、「純米」というのが入っていない日本酒にはこの「醸造アルコール」が入れられています。(一部例外もあります)

 

醸造アルコールが入っている日本酒は、「アル添酒(あるてんしゅ)」ともいわれているんですが・・・

 

「醸造アルコールが入った日本酒は、悪酔いするんだよね」

「アル添酒はうまくないよね」

 

こんなことをよく耳にするんですよ。

 

もちろん、醸造アルコールが入っていない純米酒の味わいが好きだから、

「おれは、純米酒しか飲まん。余分なものはいらない」という人もいますが、

たいていは、「醸造アルコールがイヤだ」というのがほとんどなように感じるんです。

 

でも、醸造アルコールはけっして悪いものじゃないんですよ。

いいことだってたくさんあります。

 

醸造アルコールが入った日本酒で悪酔いするっていうのは、もしかすると思い込みだったり、他のことが原因だったりするのかもしれません。

 

もちろん好みはそれぞれですから、どうしてもということではないんですが、

「醸造アルコール」をちょっと見直してみませんか?

 

 

目次

醸造アルコールとは?

そもそも「醸造アルコール」っていったい何なんでしょうか?

「醸造アルコール」とは、かんたんにいうと、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)と同じように作られたアルコール(エタノール)です。

4リットルとかの大きなペットボトルで売られていたりする焼酎の仲間ですね。

梅酒を漬けるときに使われる「ホワイトリカー」なんかも同様です。

 

醸造アルコールは、主にブラジルや台湾などで作られていて、サトウキビから砂糖を作った後に残る糖蜜というものや、トウモロコシなどを原料にしています。
※最近では、米を原料にしたものもあります。

日本にはアルコール度数が45度ほどのものが輸入されて、それをさらに国内で蒸留して純度を高め、95度ほどになったものが流通しています。

そして、実際に日本酒に入れるときには、30度ほどに水でうすめて使用されます。

 

何度も蒸留されてアルコールの純度を高めているので、醸造アルコールはほとんどがアルコール分です。

なので、醸造アルコールには原料の味や香りはありません

もちろん、アルコールの香りなんかはありますが、それ以外はほぼ無味無臭の液体なんですね。

 

醸造アルコールをなんで使うの? メリットは?

日本酒にアルコールを入れるということは、じつは江戸時代から行われていたことなんです。

昔からやってるからといって何でもいいというわけじゃないんですが、それなりにいいことがあるから続いてるっていうことですよね。

醸造アルコールを日本酒に入れるのは、こんな理由です。

 

日本酒の防腐のため

日本酒にアルコールを入れることは江戸時代から行われていたと上で書きましたが、もともとはこの「防腐のため」というのが始まりでした。

 

江戸時代のことですから、日本酒にかかわる微生物のことが今のようによくわかっていなかったんでしょう。

また、衛生管理も今ほどにはできていなかったんじゃないかと思います。

なので、日本酒を造っている時に悪い菌が入ってしまって、お酒を腐らせてしまったなんてことがよくあったそうです。

 

そこで考えだされたのが、アルコールを日本酒に入れるということです。

 

アルコールを入れるといっても、この頃のものは米から造られた焼酎だったようですが、

アルコール度数の高い焼酎を日本酒造りの過程のもろみに入れると、腐りにくくなることがわかったんですね。

この頃は、この焼酎を「柱焼酎(はしらしょうちゅう)」と呼んでいました。

 

今では、この「防腐のため」という意味合いは無くなりつつありますが、もともとはこういったことだったんですね。

 

味わいをスッキリさせる

これは、現在の日本酒にアルコールを入れる大きな理由のひとつです。

 

醸造アルコールを入れていない日本酒(純米酒)は、甘みやうま味などが豊富にあります。

もちろん、これはこれでおいしいんです。私も大好きです。

でも、反対の見方をすると、ちょっと重い味わいともいえるんです。

 

純米酒がすべて重いということではないんですが、

スッキリと飲みたいときもありますよね。

 

そこで、日本酒の味わいを軽やかにするために、醸造アルコールを入れるんです。

 

醸造アルコールには、アルコールの香りや味以外はほとんどないので、日本酒に入れることで味わいがスッキリします。

また、アルコールのピリッとした刺激が出るので、辛口な感じにもなるんですね。

 

香りを引き出す

現在の日本酒にアルコールを入れる大きな理由のもうひとつがこれです。

 

吟醸酒系の日本酒にはフルーティーないい香りがありますが、

この香りをより引き出すために、醸造アルコールが使われます。

 

日本酒を作る過程で、もろみを搾って酒かすと液体(お酒)に分ける「上槽(じょうそう)」という作業があるんですが、

この時、酒かすの方にも香りの成分がある程度残ってしまいます。

そこで、この上槽の前に醸造アルコールを入れると、酒かすになる部分に含まれる香り成分を引き出すことができて、より香り高い日本酒にすることができるんですね。

 

全国の蔵から日本酒が集まる「全国新酒鑑評会」では、香りの要素も評価の重要なポイントになるので、出品される日本酒は、醸造アルコールを入れたものがほとんどです。

 

日本酒の量を増やす

これは、醸造アルコールを日本酒に入れる理由のひとつではあるんですが、飲む方にとってはあまりメリットとは言えないです。

はっきり言って、ほぼ造り手のメリットですね。

 

日本酒の原料のお米は、お酒の原料としては高価な部類に入ります。

また、日本酒造りには多くの手間と時間がかかっているので、日本酒自体のアルコールは高価なんです。

一方、醸造アルコールは、日本酒のアルコールよりもかなり安く作られます。

 

そこで、コストを下げるために日本酒に醸造アルコールをたくさんまぜて、安い日本酒を作るんですね。

アルコールで味が薄まった分は、糖類や調味料で味付けしたりして・・・

紙パックに入って安く売られている日本酒なんかの多くがそうです。

 

安く日本酒を買えるということなら、メリットなのかもしれないんですが・・・

 

この後書きますが、このあたりが「醸造アルコール」を悪者にしてしまっている原因と思われます。

 

醸造アルコールは悪いもの? そう言われる原因は?

ここまでこの記事を読んでいただければ、「醸造アルコール」自体は悪いものなんかじゃないって思っていただけたんじゃないでしょうか?

でも、「醸造アルコール」を嫌う人がいるということは、なにか原因があるんですよね。

そのあたりを探ってみようと思います。

 

三増酒というお酒

三増酒は、「三倍増醸酒(さんばいぞうじょうしゅ)」を略した呼び名で、「さんぞうしゅ」と読みます。

なんかあやしげな名前ですよね。

 

三増酒は、戦後の米不足の中で生み出されました。

 

食べるためのお米さえ不足していた時代ですから、お酒造りにまわせるお米は本当に少なかったんでしょうね。

まともに造っていては、お酒の量があまりできません。

そんな中考えだされたのが、この三増酒なんです。

 

三増酒は、米と麹で造ったもろみに水で割った醸造アルコールを大量に入れて造られました。

そして、水やアルコールが入って味がうすくなった分を、糖類・グルタミン酸ソーダ・酸味料なんかを加えて味付けをしたんですね。

ふつうに造った日本酒の3倍ほどの量を造ることができたので、三倍増醸酒というわけです。

 

造り方を見ただけでも、まともなお酒じゃないって思いますよね?

まあ、戦後のことを考えれば仕方なかったんでしょう。

 

ただ、問題はその後なんです。

この三増酒が、米不足が解消してきてからも造られ続けたことなんです。

 

日本酒造りに使われるお米の配給制度(1969年に廃止)があって、自由にお米を仕入れることができなかったりしたこともあるんですが、

それよりも、安いお酒をたくさん造ることができるので都合がよかったっていうことがあるんです。

メーカーは利益を出せるし、飲む消費者は安く酔える。

 

こんなお酒が大量に出回ってしまいました。

 

これを飲んだら、「日本酒っておいしくないよね」って思う人もいるでしょう。

糖類・酸味料・・・なんて聞いたら、それだけで悪酔いしそうですよね。

 

どうやら醸造アルコールが入っているとかいう問題じゃない気がしてきませんか?

 

ちなみに、2006年にお酒の法律が変わって、今では三増酒は日本酒と認められなくなり造られていませんが、

まだ2倍ほどまでは認められています。

 

今でもこういった日本酒が売られているっていうことは、それなりのニーズがあるからということなので、私は否定したりはしません。

 

でも、それを飲んで、「醸造アルコールが入っている日本酒はやっぱりだめだなあ」っていうのは違うんじゃないかなあと思います。

 

「添加」という言葉

あなたは、「添加」という言葉を聞いてどう感じますか?

 

辞書を見れば、「ある物に別のものを加える」というような説明になっていますが、

「添加」って聞くと、「添加物」を連想したりしませんか?

 

添加物がいい物か悪い物かはここでは話しませんが、

私は、「添加物」っていうと、化学調味料のようなものを思い浮かべてしまいます。

 

「醸造アルコールを添加した日本酒」って言われると、なんかあまり良くないものが入っているような気持ちになっちゃうんですよね。

 

この記事の中では、私はなるべく「添加」という言葉を使わないようにしています。

「アル添酒」なんていう言葉はやめてほしいなあって思うんですよ。

 

私の個人的な思いなので、そう思われない方もいらっしゃるでしょうけど・・・

 

余談ですが

これは、余談なんですが・・・

 

グルメ漫画の「○○しんぼ」の中で、「醸造アルコール」のことが痛烈に批判されているようなんですよね。

「醸造アルコールが入っている酒は日本酒じゃないぐらいなことが書かれているようです。

でも、これを読んだ人のブログなんかを見ると、「ちょっとそれは違うんじゃないの」っていう内容みたいなんですよ。

 

私も以前に読んだ事があるんですが、「美味○○○」ってけっこう有名な漫画ですよね。

そんな漫画で書かれてしまうと、「ちょっと違うんじゃない」っていうことも、

知らない人なら「そうなんだー」って思っちゃいますよね。

 

私はまだこの部分は読んだことがないのでよくはわからないんですが、影響力のある物を書いている人にはもう少しちゃんと書いてほしいなあと思います。

この作者が醸造アルコールが入っている日本酒が本当に嫌いなら、まあしょうがないですけどね。

 

興味があれば、「○○しんぼ 日本酒」で検索してみてください。

※○○の部分はわかりますよね(笑)

 

私も読んでみます。

もしかしたら、この記事を書きかえるかもしれません・・・(ないと思うけど)

 

※後日読んでみました。

 

感想は・・・

 

やっぱり「うーん」ってなっちゃいましたね。

 

三増酒とかの日本酒の量を大きく増やしているお酒を批判するのは私も同感なんですが、

少量の醸造アルコールを入れた吟醸酒とかまで一緒に悪者にされちゃている感じで。

 

読者の興味を引くにはこれぐらい極端に書いたほうがいいのかもしれないですけど、

ちょっと度がすぎるんじゃないかなあ。

 

矛盾も多いんですよね。

純米酒しかダメみたいなことを書いておいて、醸造アルコールを入れた吟醸酒が紹介されてたり・・・

 

まあ、日本酒の事だけ書いている漫画じゃないからしょうがないかもしれないけど、

もう少しちゃんと書いてほしかったなあ。

 

いいことも言ってるんですよ「山岡さん」が、

でも、もしあなたが読むことがあったら、全部を真にうけないでほしいです。

 

醸造アルコールの決め事

2006年に三倍増醸酒が認められなくなったように、醸造アルコールの日本酒への使用には決め事があります。

いくらでも使っていいというわけじゃないんですね。

 

現在では、日本酒に加えていいアルコールの量は、原料のお米1トンにつき280リットルまでと制限されています。

細かい計算は省きますが、アルコールの割合で約2倍ほどまでということになるので、三増酒は清酒として認められなくなったけど、二増酒まではOKということなんですね。

これについては、私もちょっと疑問に思っています。

 

一方、吟醸酒などの特定名称酒では、醸造アルコールの添加量はさらに制限されています。

※特定名称酒については、こちらをどうぞ。↓↓

 

特定名称酒では、原料のお米1トンの10%(純粋なアルコールで116.4リットル)までとされています。

 

こちらも細かい計算は省きますが、上限まで醸造アルコールを入れたとしても、できあがった日本酒のアルコールの約4分の1ほどが醸造アルコールということになります。

 

ただ、特定名称酒においては、醸造アルコールを入れる目的は、「香りを引き出したり、スッキリとさせる」ことがメインであって、「量を増やす」ことを目指してはいません。(そのはずです)

なので、上限まで醸造アルコールを入れないようなこともけっこうあるようですね。

 

まとめ

「醸造アルコール」は、食物由来の原料から作られた純粋なアルコールです。

それ自体には悪酔いする原因は無いと思います。

(もしホントに醸造アルコールに拒否反応がある方がいたらごめんなさい)

 

悪酔いする原因は「醸造アルコール」ではなく、二増酒などの安い日本酒に含まれている他の成分にあるのかもしれません。

もちろん飲みすぎれば二日酔いにもなりますしね。

 

増量目的に「醸造アルコール」が使われていて、他の添加物がいろいろ入っている紙パックなどの日本酒と、

香りや味の調整のために少量の「醸造アルコール」が使われている特定名称酒の日本酒では、

同じ醸造アルコールが入った日本酒といっても意味合いが違ってきます。

 

「醸造アルコール」が入った日本酒としてひとくくりにしない方がいいんじゃないでしょうか?

 

「醸造アルコール」が入った日本酒にもすばらしいものがたくさんあります。

「醸造アルコール」の良い使い方をしている日本酒ですね。

 

最近は、お米から造られたアルコールを、醸造アルコールとして入れている蔵元さんもあります。

 

「アル添酒」なんていうネガティブな呼び方はやめて、ちょっと飲んでみませんか?

日本酒の世界が広がるかもしれませんよ。

 

自分の好きな酒が一番良い酒です。

 

 

最後にちょっとだけ・・・

 

醸造アルコールが入った日本酒は、海外では「混成酒」に分類されてしまって、「醸造酒」とは違うものとされてしまうことがあります。

わかりやすくいうと、日本では同じ清酒である純米酒と本醸造酒が、海外では場合によっては違う分類のお酒になってしまうということです。

 

最近では、日本酒が海外でも評価されて、日本食レストランなどで飲まれています。

誤解をまねかないためにも、こういった問題は早く解決していかなければいけないことだと思います。

 

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